2026.04.10 / 東洋医学コラム / 桐山 順之介
当院に初めていらっしゃった方が、まず驚かれるのが「脈診」の時間です。3 分以上、両手首の脈を黙って取らせていただきます。「健康診断の脈拍と何が違うんですか?」とよく質問されるので、今回はこの脈診について書いておきます。
西洋医学の脈拍 vs 東洋医学の脈診
西洋医学で脈を見るのは、心拍数 (毎分何回打つか) と、不整脈の有無くらいです。それで身体の状態を読むことはほぼありません。一方、東洋医学の脈診は、心拍数を数えるのではなく「脈の質感」を読みます。
具体的には:
- 脈の深さ (浅い/深い)
- 脈の速さ (速い/遅い)
- 脈の太さ (太い/細い)
- 脈の強さ (有力/無力)
- 脈のリズム (規則的/乱れる)
- 脈の形 (滑らか/渋い/弦のよう/もやもや)
これらを 6 つのポイント (両手首の橈骨動脈の浅・中・深) で同時に評価します。1 人の身体から、12 通りの情報が得られるイメージです。
28 種類の脈の表現
古典『脈経』には 28 種類の脈が記述されています。たとえば:
| 脈の名前 | 状態 | 多い症状 |
|---|---|---|
| 浮脈 | 表面に強く触れる | 風邪・初期感染症 |
| 沈脈 | 深く押さないと触れない | 慢性内臓不調・冷え |
| 弦脈 | ピンと張った弦のよう | 肝の気の滞り・ストレス |
| 滑脈 | ころころとした珠のよう | 妊娠・痰湿 |
| 細脈 | 糸のように細い | 気血不足・疲労 |
| 渋脈 | 引っかかるよう | 瘀血 (血流不全) |
脈は嘘をつかない
問診で「元気です」とおっしゃる方でも、脈に明らかな弦・細・沈などのサインが出ていることがあります。本人の自覚と、身体の本当の状態は別物。脈は、その方の身体の本当の声です。
三診の意義 — 脈診・腹診・舌診
当院では脈診に加えて腹診 (お腹の温度・硬さ・圧痛点)、舌診 (舌の色・形・苔) を組み合わせ、3 軸で身体の地図を読みます。これを「三診」と呼びます。
3 つを組み合わせることで、たとえば:
- 脈: 沈・遅 + 腹: 冷たい + 舌: 淡白 → 陽虚 (温める鍼 + 灸)
- 脈: 弦 + 腹: 右脇下に圧痛 + 舌: 紅に黄苔 → 肝鬱化火 (疏肝の鍼)
- 脈: 細 + 腹: 軟弱 + 舌: 痩せ型 → 気血両虚 (補気の灸 + 漢方茶)
この組み合わせで「症状の根」が決まり、施術方針が変わります。同じ「肩こり」でも、人によってアプローチがまったく異なるのはこのためです。
脈診は職人芸ではありません。基礎を知れば、誰でもある程度読めます。私たちが患者さまに自分の脈を取っていただくのは、自分の身体の声を聞く練習でもあります。— 桐山 順之介